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電子帳簿システムとは? 官公庁・自治体職員が知っておくべき業務効率化の新常識

電子帳簿システムとは? 官公庁・自治体職員が知っておくべき業務効率化の新常識

目次 

はじめに

電子帳簿システムは、官公庁や自治体における行政業務の効率化と透明性の向上を図るための重要なツールとして注目を集めています。近年、デジタル化の波が行政機関にも押し寄せる中、従来の紙ベースの帳簿管理から電子化への移行が急速に進んでいます。

電子帳簿システムは、単なる帳簿のデジタル化にとどまらず、業務プロセス全体の最適化や情報の一元管理を可能にする包括的なソリューションです。これにより、行政サービスの質の向上や、より効率的な組織運営が期待されています。

本記事では、電子帳簿システムの基本的な概念から、その導入によるメリット、さらには導入に際しての課題と対策まで、官公庁・自治体職員が知っておくべき情報を詳しく解説します。急速に変化する行政のデジタル化の波に乗り遅れないよう、電子帳簿システムについての理解を深めていきましょう。

電子帳簿システムとは? 行政向けに求められる機能

電子帳簿システムは、従来の紙ベースの帳簿管理をデジタル化し、効率的かつ安全に情報を管理するためのシステムです。特に行政機関向けの電子帳簿システムには、高度なセキュリティと柔軟な運用性が求められます。ここでは、電子帳簿システムの主要な機能と特徴について詳しく見ていきましょう。

基本機能

電子帳簿システムの基本機能には、帳簿の作成、保存、検索、閲覧、そしてデータの安全なバックアップが含まれます。これらの機能により、従来の紙ベースの帳簿管理と比較して、情報の取り扱いが格段に効率化されます。

具体的には、以下のような機能が実装されています:

  1. データ入力:ユーザーフレンドリーなインターフェースを通じて、簡単かつ正確にデータを入力できます。
  2. データ保存:入力されたデータは自動的に保存され、必要に応じて即座に取り出すことができます。
  3. 検索機能:キーワードや日付、カテゴリーなどの条件を指定して、必要な情報を素早く検索できます。
  4. 閲覧・編集:権限を持つユーザーは、保存されたデータを閲覧し、必要に応じて編集することができます。
  5. バックアップ:定期的に自動バックアップを行い、データの損失を防ぎます。

これらの基本機能により、行政機関の業務効率が大幅に向上し、人為的ミスも減少することが期待できます。

セキュリティ対策

行政機関が扱う情報には、個人情報や機密情報が含まれることが多いため、電子帳簿システムには高度なセキュリティ対策が不可欠です。主要なセキュリティ機能には以下のようなものがあります:

  1. アクセス制御:ユーザー認証を厳密に行い、権限のある人物のみがデータにアクセスできるようにします。
  2. データ暗号化:保存されているデータを暗号化し、万が一の情報漏洩時にも内容が解読されないようにします。
  3. 操作ログの記録:誰がいつどのようなデータにアクセスしたかを詳細に記録し、不正アクセスの早期発見と追跡を可能にします。
  4. 多要素認証:パスワードだけでなく、生体認証や物理トークンなど、複数の認証方法を組み合わせてセキュリティを強化します。
  5. ネットワークセキュリティ:ファイアウォールやVPN(仮想プライベートネットワーク)を使用して、外部からの不正アクセスを防ぎます。

これらのセキュリティ対策により、電子帳簿システムは高い安全性を確保し、行政機関の信頼性を維持することができます。

運用の柔軟性

行政機関には様々な部署や業務があり、それぞれに異なるニーズがあります。そのため、電子帳簿システムには高い柔軟性が求められます。以下のような特徴が重要です:

  1. カスタマイズ性:各部署や業務の特性に合わせて、帳票のフォーマットやワークフローをカスタマイズできます。
  2. スケーラビリティ:組織の規模や業務量の変化に応じて、システムを拡張または縮小できます。
  3. 他システムとの連携:既存の業務システムや他の行政システムとのデータ連携が可能です。
  4. マルチデバイス対応:PC、タブレット、スマートフォンなど、様々なデバイスからアクセスできます。
  5. クラウド対応:オンプレミスだけでなく、クラウド環境での運用にも対応し、柔軟な働き方を支援します。

これらの柔軟性により、電子帳簿システムは様々な行政機関のニーズに適応し、長期的な運用を可能にします。

電子帳簿システムが注目される背景

電子帳簿システムが官公庁や自治体で注目されている背景には、法令の変化、業務効率化の必要性、そしてデジタル化の推進という三つの大きな要因があります。これらの要因について詳しく見ていきましょう。

法令の変化

電子帳簿システムの導入が進められている最大の理由の一つは、法令の変化です。特に「電子帳簿保存法」の改正が大きな影響を与えています。

  1. 電子帳簿保存法の改正:2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法により、電子的に作成した帳簿や書類の電子保存が原則義務化されました。これにより、多くの行政機関が電子帳簿システムの導入を検討するようになりました。
  2. 要件の緩和:改正法では、電子帳簿の保存要件が緩和され、より多くの組織が電子保存を行いやすくなりました。例えば、スキャナ保存における承認制度の廃止や、電子取引データの保存方法の選択肢の拡大などが挙げられます。
  3. 罰則規定の導入:一方で、電子取引データの保存義務違反に対する罰則規定が設けられ、適切な電子保存の重要性が高まっています。

これらの法令の変化により、行政機関は電子帳簿システムの導入を急ぐ必要性に迫られています。

業務効率化の必要性

行政機関では、限られた人員と予算で多様化する行政ニーズに対応する必要があり、業務効率化が急務となっています。

  1. 人員不足への対応:少子高齢化による労働力人口の減少に伴い、行政機関でも人員不足が深刻化しています。電子帳簿システムの導入により、従来の手作業による帳簿管理の負担を軽減し、限られた人員でより多くの業務をこなすことが可能になります。
  2. 予算の効率的活用:厳しい財政状況の中、予算の効率的な活用が求められています。電子帳簿システムによるペーパーレス化や業務プロセスの最適化は、長期的なコスト削減につながります。
  3. 迅速な情報提供:市民サービスの向上のため、行政情報の迅速な提供が求められています。電子帳簿システムにより、必要な情報を素早く検索・抽出できるようになり、情報提供のスピードアップが図れます。
  4. ワークスタイルの変革:テレワークなど、新しい働き方への対応も求められています。電子帳簿システムは、場所や時間にとらわれない柔軟な業務遂行を可能にします。

デジタル化の推進

政府が推進するデジタル化政策も、電子帳簿システム導入の大きな後押しとなっています。

  1. デジタル・ガバメント実行計画:政府は「デジタル・ガバメント実行計画」を策定し、行政のデジタル化を強力に推進しています。電子帳簿システムは、この計画の重要な要素の一つとして位置づけられています。
  2. マイナンバー制度との連携:マイナンバー制度の普及に伴い、行政機関における情報管理のデジタル化が加速しています。電子帳簿システムは、マイナンバーを活用した効率的な情報管理を可能にします。
  3. オープンデータの推進:行政の透明性向上と民間活用を目的としたオープンデータの取り組みが進んでいます。電子帳簿システムは、データの標準化と共有を容易にし、オープンデータの推進に寄与します。
  4. AI・RPA活用への準備:将来的なAI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の活用を見据え、データのデジタル化が進められています。電子帳簿システムは、これらの先進技術の基盤となります。

これらの背景により、電子帳簿システムは単なる帳簿のデジタル化ツールではなく、行政のデジタル変革を支える重要な基盤技術として注目を集めています。

官公庁や自治体での電子帳簿システム導入のメリット

電子帳簿システムの導入は、官公庁や自治体に多くのメリットをもたらします。ここでは、主要な3つのメリットについて詳しく解説します。

業務の効率化

電子帳簿システムの導入により、帳簿管理にかかる時間と労力を大幅に削減できます。これは単に作業時間の短縮だけでなく、業務プロセス全体の最適化につながります。

  1. データ入力の効率化:手書きやエクセルでの入力に比べ、専用のインターフェースを使用することで、入力ミスの減少と入力速度の向上が図れます。また、OCR(光学文字認識)技術を活用することで、紙の書類から自動的にデータを取り込むことも可能です。
  2. 検索・集計の迅速化:電子化されたデータは瞬時に検索・集計が可能です。例えば、特定の期間の予算執行状況や、特定の事業に関する支出を、数クリックで把握できるようになります。これにより、意思決定のスピードアップや、監査対応の効率化が期待できます。
  3. 承認プロセスの簡素化:電子決裁システムと連携することで、従来は紙の書類を物理的に回覧していた承認プロセスを大幅に簡素化できます。これにより、決裁にかかる時間を短縮し、業務のスピードアップを図ることができます。
  4. 自動化による作業負荷の軽減:定期的な報告書の作成や、データのバックアップなど、ルーチンワークを自動化することで、職員の作業負荷を軽減できます。これにより、より創造的な業務や市民サービスの向上に時間を割くことが可能になります。
  5. テレワークの実現:電子帳簿システムの導入により、場所を選ばずに業務を行うことが可能になります。これは、災害時の業務継続性の確保や、ワークライフバランスの向上にも寄与します。

ペーパーレス化によるコスト削減

電子帳簿システムの導入は、紙の使用量を大幅に削減し、それに伴うコストの削減にもつながります。

  1. 印刷コストの削減:帳票や報告書の印刷が不要になることで、プリンターのトナーや用紙代を削減できます。大規模な自治体では、この削減効果は年間で数百万円に及ぶ可能性があります。
  2. 保管スペースの有効活用:紙の帳簿や書類の保管に必要だった大量の書棚やキャビネットが不要になります。これにより、オフィススペースを有効活用でき、場合によっては事務所の縮小によるコスト削減も可能になります。
  3. 文書管理コストの削減:紙の文書の整理、ファイリング、保管、廃棄などにかかる人件費を削減できます。また、文書の劣化や紛失のリスクも軽減されます。
  4. 環境負荷の低減:紙の使用量が減ることで、環境への負荷も軽減されます。これは、SDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献し、環境に配慮した自治体としてのイメージアップにもつながります。
  5. 災害対策コストの削減:電子データはクラウド上にバックアップを取ることで、災害時のデータ損失リスクを大幅に軽減できます。これにより、従来の紙の文書に対する災害対策コスト(耐火金庫の購入など)を削減できます。

情報の一元管理

電子帳簿システムの導入により、様々な情報を一元的に管理することが可能になります。これは、業務の効率化だけでなく、組織全体の情報活用力の向上にもつながります。

  1. データの統合:従来は部署ごとに管理されていた情報を、一つのシステム上で統合的に管理できるようになります。これにより、組織全体の情報を俯瞰的に把握することが可能になり、より戦略的な意思決定を行うことができます。
  2. リアルタイムの情報共有:電子帳簿システム上のデータは、権限のある職員であればリアルタイムで閲覧・更新が可能です。これにより、部署間の情報共有がスムーズになり、連携業務の効率が大幅に向上します。
  3. データの一貫性確保:同じデータを複数の部署で別々に管理する必要がなくなるため、データの不整合や重複入力のリスクが軽減されます。これにより、データの信頼性が向上し、正確な情報に基づく業務遂行が可能になります。
  4. 過去データの活用:電子化されたデータは長期間の保存と迅速な検索が可能です。過去の事例や統計データを簡単に参照できるようになることで、より根拠に基づいた政策立案や意思決定が可能になります。
  5. セキュリティの向上:アクセス権限の細かな設定や、操作ログの記録により、機密情報の管理が厳格化されます。これにより、情報漏洩のリスクを低減しつつ、必要な情報を必要な人に適切に提供することが可能になります。

これらのメリットにより、電子帳簿システムは単なる帳簿管理ツールを超えて、組織全体の業務効率と情報活用力を高める重要な基盤となります。

電子帳簿システム導入の課題と対策

電子帳簿システムの導入には多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も存在します。ここでは、主要な課題とその対策について詳しく解説します。

導入コスト

電子帳簿システムの導入には、初期投資として高額なコストがかかる場合があります。これは特に小規模な自治体にとっては大きな負担となる可能性があります。

課題:

  1. ハードウェア(サーバー、ネットワーク機器など)の購入費用
  2. ソフトウェアのライセンス費用
  3. システム構築のための人件費
  4. 既存システムとの連携や移行にかかる費用

対策:

  1. クラウドサービスの活用:初期投資を抑えつつ、必要に応じて拡張可能なクラウドベースのサービスを選択する。
  2. 段階的な導入:全ての業務を一度に電子化するのではなく、優先度の高い業務から段階的に導入する。
  3. 共同調達:近隣自治体と共同でシステムを調達することで、コストを分散させる。
  4. 補助金の活用:国や都道府県が提供する電子化推進のための補助金を活用する。
  5. TCO(総所有コスト)の評価:初期コストだけでなく、運用コストや従来システムのコストも含めた長期的な視点でコスト評価を行う。

職員のITリテラシー向上

電子帳簿システムの効果を最大限に引き出すためには、システムを使用する職員のITリテラシーの向上が不可欠です。

課題:

  1. 年齢層や部署によるITスキルの格差
  2. 新しいシステムへの抵抗感
  3. セキュリティ意識の不足
  4. 効率的なシステム活用スキルの不足

対策:

  1. 段階的な研修プログラムの実施:基礎から応用まで、段階的な研修を行い、全ての職員のスキルアップを図る。
  2. マニュアルの整備:わかりやすい操作マニュアルを作成し、いつでも参照できるようにする。
  3. サポート体制の構築:ヘルプデスクの設置や、各部署にITサポート担当者を配置するなど、継続的なサポート体制を整える。
  4. 情報セキュリティ教育の徹底:定期的な情報セキュリティ研修を実施し、セキュリティ意識の向上を図る。
  5. ベストプラクティスの共有:効率的な使用方法や活用事例を組織内で共有し、学び合いの文化を醸成する。

システムの適合性の確認

既存の業務プロセスと電子帳簿システムの機能が適合しない場合、導入後に様々な問題が発生する可能性があります。

課題:

  1. 既存の業務フローとシステムの不適合
  2. カスタマイズの必要性と追加コスト
  3. 法令や規則との整合性の確保
  4. 他システムとの連携の複雑さ

対策:

  1. 詳細な業務分析:導入前に現在の業務プロセスを詳細に分析し、システムに求められる機能を明確化する。
  2. パッケージソフトの選定:可能な限り、カスタマイズの必要性が少ないパッケージソフトを選定する。
  3. 試験運用の実施:本格導入前に、一部の部署や業務で試験的に運用し、問題点を洗い出す。
  4. 段階的な導入:全ての機能を一度に導入するのではなく、優先度の高い機能から段階的に導入する。
  5. 専門家の活用:システム導入の経験豊富な外部コンサルタントを活用し、適切な導入計画を立てる。

これらの課題に適切に対処することで、電子帳簿システムの導入をより円滑に進め、そのメリットを最大限に活用することができます。導入にあたっては、単にシステムを入れ替えるだけでなく、業務プロセスの見直しや組織文化の変革も含めた総合的なアプローチが必要となります。

まとめ

電子帳簿システムは、官公庁や自治体における行政業務の効率化と透明性向上を実現するための重要なツールです。本記事では、電子帳簿システムの基本的な機能から、その導入背景、メリット、そして導入に際しての課題と対策まで、幅広く解説してきました。

電子帳簿システムの主な特徴として、以下の点が挙げられます:

  1. 基本機能:データの入力、保存、検索、閲覧、バックアップなど、帳簿管理に必要な機能を電子化
  2. 高度なセキュリティ対策:アクセス制御、データ暗号化、操作ログの記録など、情報の安全性を確保
  3. 運用の柔軟性:カスタマイズ性、スケーラビリティ、他システムとの連携など、様々なニーズに対応

導入のメリットとしては、業務の効率化、ペーパーレス化によるコスト削減、情報の一元管理などが挙げられます。これらのメリットにより、行政サービスの質の向上や、より効率的な組織運営が期待できます。

一方で、導入には課題もあります。主な課題として、導入コスト、職員のITリテラシー向上、システムの適合性の確認などがあります。しかし、これらの課題に対しては、クラウドサービスの活用、段階的な導入、継続的な研修プログラムの実施など、様々な対策を講じることで克服することが可能です。

電子帳簿システムの導入は、単なる帳簿管理のデジタル化にとどまらず、行政のデジタル変革を推進する重要な一歩となります。法令の変化や技術の進化に対応しながら、継続的な改善と活用を進めていくことが重要です。

今後、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などの先進技術との連携も進み、電子帳簿システムの可能性はさらに広がっていくでしょう。官公庁や自治体の職員の皆様には、この変革の波に乗り遅れることなく、積極的に電子帳簿システムの導入と活用を検討していただきたいと思います。

電子帳簿システムは、行政のデジタル化における重要な基盤技術です。その導入と活用を通じて、より効率的で透明性の高い行政運営を実現し、市民サービスの向上につなげていくことが期待されます。

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