デジタルマーケットプレイス(DMP)とは、デジタル庁が提供する、行政機関がクラウドソフトウェア(SaaS)を迅速に調達できる環境を整備するための新たな調達手法です。
今回は、事業者向けのDMPへの参加方法を解説します。
1. 基本契約の締結手順
デジタルマーケットプレイスに参加するためには、まずデジタル庁との基本契約締結が必要です。基本契約を締結することで、DMPカタログサイトへのソフトウェアおよびサービスの登録が可能になります。
DMP参加には以下の前提条件を満たす必要があります:
- クラウドサービス(SaaS)を提供していること
- 全省庁統一資格を保有していること
- GビズIDプライムアカウントを保有していること
- 行政サービスまたは行政事務を処理する目的のソフトウェアであること
- デジタル庁の定める基本契約に同意すること
注意点
ハードウェアを含む調達は対象外です。また、企業内部で使用するサービス(例:ゲーム、エンターテイメント等)も対象外となります。
全省庁統一資格は、政府調達(公共調達)に参加するために必要な資格です。以下の手順で取得します:
必要な資格の種類:
- 直販会社および代販事業者:「物品の販売」および「役務の提供等」の双方の資格
- 製造事業者:「物品の製造」を含むいずれか1つの資格
重要
令和7年度(2025年度)にDMPカタログサイトへ登録する場合は、令和7・8・9年度(2025-2028年)に有効な全省庁統一資格が必要です。資格の取得には1〜2ヶ月程度かかる場合がありますので、早めに手続きを開始してください。
GビズIDは、行政手続きを行うための共通認証システムです。DMP参加には「GビズIDプライム」または「GビズIDメンバー」アカウントが必要です。
メンバーアカウントについて
GビズIDプライムを取得した後、必要に応じて同じ組織内の他のメンバー用に「GビズIDメンバー」を作成できます。メンバーアカウントでもDMP登録・管理が可能です。
全省庁統一資格とGビズIDを取得後、デジタル庁との基本契約を締結します。
基本契約のポイント:
- 契約期間は各年度末までで、継続利用には毎年度再締結(同意)が必要
- 年度内に契約内容の改定があれば、その都度再締結が必要
- 登録した情報の最新性維持が求められる
- 行政機関からの問い合わせや見積依頼に応じる義務がある
- デジタル庁による登録情報の審査があり、要件を満たさない場合は掲載が拒否される場合がある
重要
全省庁統一資格を保有せずに登録された場合や、行政機関等の求めに適切に対応しない場合は、契約が解除される可能性があります。
2. 登録に必要な書類と情報
基本契約締結後、DMPカタログサイトに事業者情報、ソフトウェア情報、サービス情報を登録します。それぞれに必要な情報と書類を確認しましょう。
事業者情報の登録には以下の情報と書類が必要です:
必要情報/書類 | 詳細 |
---|---|
基本情報 | 法人番号、法人名・屋号、住所、代表者名(GビズIDから自動取得) |
事業者情報 | 事業内容、従業員数、資本金、設立年月など |
全省庁統一資格情報 | 資格の種類、等級、有効期間 |
連絡先情報 | 担当部署、担当者名、電話番号、メールアドレスなど |
ウェブサイト情報 | 企業ウェブサイトURL |
注意点
GビズIDから取得する情報(法人番号、法人名、住所、代表者名)は、DMPカタログサイト上で修正することはできません。変更が必要な場合は、GビズID側で情報を更新する必要があります。
ソフトウェア情報の登録には以下の項目が必要です:
カテゴリ | 必須項目 |
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基本情報 |
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機能情報 |
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技術情報 |
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導入実績 |
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添付資料 |
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重要
ソフトウェア情報は行政機関が検索・比較する際の重要な判断材料となります。特に「目的タグ」と「機能タグ」は検索に直接影響するため、適切に設定してください。
サービス情報(販売情報)の登録には以下の項目が必要です:
カテゴリ | 必須項目 |
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価格情報 |
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サポート情報 |
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契約情報 |
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販売条件 |
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販売会社と直販の違い
ソフトウェア会社(開発元)と販売会社(リセラー)では登録する情報が異なります。ソフトウェア会社は製品情報を、販売会社はサポートや販売条件の情報を登録します。ソフトウェア会社が直接販売する場合は、両方の情報を登録します。
DMPに登録する情報には、一般公開される情報と行政ユーザーのみに公開される情報があります。
公開範囲 | 対象情報 |
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一般公開(ログインなし) |
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行政ユーザーのみ公開 |
|
重要
登録した標準価格情報は一般には公開されませんが、行政ユーザーがログインすると閲覧できます。ただし、DMPでの価格は目安であり、最終的な契約価格は個別契約時に決定されます。
3. サービスの掲載手続きの流れ
基本契約の締結後、DMPカタログサイトに具体的な情報を登録する手順を解説します。
DMPカタログサイトにアクセスし、事業者アカウントを作成します。
アカウント種別
DMPへの登録には、「ソフトウェア会社」と「販売会社」の2種類があります。ソフトウェア会社はソフトウェアを開発・提供する企業、販売会社はソフトウェアを販売する代理店等を指します。自社でソフトウェアを開発し直接販売する場合は、両方の役割を兼ねることになります。
事業者アカウント作成後、ソフトウェア情報を登録します。
「ソフトウェア登録」メニューから、ソフトウェア名、概要、対象ユーザー、利用シーンなどの基本情報を入力します。
ソフトウェアの用途(行政向け、業務効率化など)や機能(文書管理、データ分析など)に関するタグを選択します。適切なタグ設定は検索結果に大きく影響します。
動作環境、セキュリティ対応状況、アクセシビリティ対応状況などの技術情報を入力します。ISMAP登録有無やISO認証取得状況などもここで登録します。
行政機関での導入実績(あれば)や、全体の導入実績数を登録します。具体的な導入先名の記載は必須ではありませんが、行政機関名の記載は評価されます。
ソフトウェアの画像(最大5枚)と製品カタログ(PDF)をアップロードします。画像は視覚的にわかりやすいUIのスクリーンショットが効果的です。
重要なポイント
ソフトウェア情報は行政機関の検索結果に直接影響します。特に「目的タグ」「機能タグ」は重要な検索条件となるため、適切に設定してください。誇大な表現や不正確な情報は審査で却下される可能性があります。
ソフトウェア情報の登録後、販売サービス情報を登録します。
「サービス登録」メニューから、販売地域、最小・最大契約ユーザー数、最低利用期間などの販売条件を設定します。
ライセンス形態(ユーザー単位、組織単位など)、標準価格、価格体系(月額、年額など)を登録します。複数の価格プランがある場合は、それぞれを登録できます。
セットアップサービス、ヘルプデスク対応、保守サポートなどのサポート内容と条件を登録します。サポート対応時間やサポート方法も詳細に記入します。
利用規約/約款、SLA(サービスレベル合意)、データの取扱いに関する情報を登録します。約款のPDFファイルなどをアップロードすることも可能です。
すべての情報を入力後、登録内容を確認し、申請ボタンをクリックします。申請後、デジタル庁による審査が行われます。
販売会社と直販の違い
販売会社(リセラー)の場合は、販売するソフトウェアを選択した上で、自社が提供するサポートサービスや販売条件を登録します。ソフトウェア会社が直接販売する場合は、自社ソフトウェアに対する販売条件を登録します。
DMPへの効果的な登録のためのポイントをご紹介します。
効果的な登録のポイント
- 行政機関のニーズに沿った明確な製品説明を心がける
- 行政特有の課題解決方法を具体的に記載する
- セキュリティ対応状況を詳細に記載する
- 行政機関での導入実績があれば積極的に記載する
- わかりやすい製品スクリーンショットを掲載する
避けるべき点
- 誇大な表現や根拠のない主張
- 具体性に欠ける抽象的な説明
- 行政利用に不適切な機能タグの設定
- セキュリティ情報の不足
- 価格体系の不明確な記載
- 必要な添付資料の不足
成功事例の特徴:
- 行政特有のニーズを理解した製品説明
- 明確な価格体系と導入条件の提示
- 適切な目的・機能タグの設定
- セキュリティ対応の詳細な記載
- 行政での導入事例や成功事例の紹介
- 充実したサポート体制の説明
4. 審査・公開までのタイムライン
登録情報の申請後、デジタル庁による審査を経て公開されるまでのプロセスを解説します。
申請された情報は、デジタル庁のDMP事務局によって審査されます。審査のプロセスは以下の通りです:
審査の対象
審査では、提供されるSaaSが行政利用に適しているか、登録情報に誤りや不適切な表現がないか、セキュリティ要件を満たしているかなどが確認されます。
審査をスムーズに通過するためのポイントをご紹介します。
審査項目 | 審査ポイントと対応策 |
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資格要件 |
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ソフトウェア要件 |
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セキュリティ要件 |
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登録情報の正確性 |
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審査での主な差戻し理由
審査で差戻しとなる主な理由として、「必要書類の不足」「セキュリティ情報の不足」「不適切な表現や誇大表現」「行政利用に適さないソフトウェア」などがあります。申請前に十分な確認を行ってください。
DMPへの登録申請から公開までの一般的なタイムラインは以下の通りです:
(約1週間)
(約1週間)
申請から公開までの目安:
- 申請受付:申請情報の受領(即日)
- 初期審査:基本要件の確認(約1週間)
- 詳細審査:内容審査・必要に応じた追加情報の要求(約1週間)
- 公開:審査通過後、カタログサイトに公開(1〜2営業日)
※審査の混雑状況や追加情報の要求有無により、期間は前後する場合があります。
申請のタイミング
各年度のDMP参加申請には締め切りがあります。令和6年度(2024年度)のDMPカタログサイトへの事業者申請は令和7年(2025年)2月28日までとなっています。次年度以降の申請スケジュールはデジタル庁からの公表をご確認ください。
DMPカタログサイトに公開された情報は、事業者の責任で最新の状態に保つ必要があります。
定期的な更新が必要な情報
- 価格情報(変更があった場合)
- ソフトウェアの機能(バージョンアップ時)
- サポート内容(変更があった場合)
- セキュリティ情報(認証更新時など)
- 担当者情報(変更があった場合)
- 利用規約・約款(改定時)
情報更新の手順
- DMPカタログサイトにログイン
- 「登録情報管理」メニューを選択
- 更新したい情報のカテゴリを選択
- 情報を更新し、保存
- 重要な変更の場合は審査が行われる
行政機関からの問い合わせ対応:
DMPに登録すると、行政機関から直接問い合わせやデモ依頼、見積依頼などが届く可能性があります。基本契約では、これらの問い合わせに誠実に対応することが求められています。迅速かつ丁寧な対応を心がけましょう。
重要
登録情報が最新でない場合や、行政機関からの問い合わせに適切に対応しない場合は、基本契約違反となり、DMP掲載が取り消される可能性があります。特に価格情報や機能情報は常に最新の状態を保つよう注意してください。