【行政職員向け】デジタルマーケットプレイス(DMP)とは?

【行政職員向け】デジタルマーケットプレイス利用とは

目次 

デジタルマーケットプレイス(DMP)とは、デジタル庁が提供する、行政機関がクラウドソフトウェア(SaaS)を迅速に調達できる環境を整備するための新たな調達手法です。

今回は、DMPができた背景や基本的な仕組みについて解説したいと思います。

1. なぜDMPが誕生したのか?背景と目的

これまでの行政IT調達の課題

従来の行政IT調達は、一般競争入札を中心とした手法が主流でした。この方式では次のような課題がありました:

  • 調達までに長期間(通常3ヶ月以上)を要する
  • 行政ユーザー・事業者双方の負担が大きい
  • 調達仕様書など準備書類が多岐に渡る
  • 新規事業者の参入障壁が高い
  • 特定のITベンダーへの依存
  • 市場のソフトウェアベンダー情報が限定的
  • 最適なサービス調達の機会損失

英国の成功事例

英国では2014年にDMPを導入し、調達の劇的な変化を実現しました:

  • 2009年時点:大手企業が政府IT調達の8割を占める
  • 2021年時点:大手企業6割、中小企業4割に是正
  • 調達期間の短縮:従来の半分以下に
  • ソフトウェアの多様化と品質向上

※英国がDMPの創設国であり、日本はその知見を参考に導入

DMPの主な目的

クラウドソフトウェア市場の可視化・比較を通じて行政機関による迅速・公平な調達を促進

公共調達を通じた中小・スタートアップを含めたソフトウェア産業振興につなげる

アジャイルなソフトウェア導入を可能にし、より良いサービスをより迅速に国民へ提供

調達プロセスの簡素化による行政機関・事業者双方の負担軽減

DMPの誕生と発展

2022年
デジタル庁によるDMP導入検討開始
有識者オープン・タスクフォースの実施
2023年
DMPテスト版カタログサイトリリース
事業者・行政利用者向けワークショップ実施
2024年10月
DMP正式版カタログサイトリリース(ソフトウェア会社・販売会社向け機能)
2025年1月
一般利用者向けフリー検索機能リリース
2025年3月
行政機関向け調達機能リリース予定
本格的なDMP調達開始

期待される効果

行政機関への効果

  • 多様なソフトウェアからの効率的な選定が可能に
  • 調達期間の大幅短縮
  • クラウドサービスの迅速な導入
  • アジャイルなソフトウェア導入の実現
  • 手続きの簡素化による負担軽減
  • 調達の透明性向上

事業者(ベンダー)への効果

  • 幅広い行政機関へのリーチが容易に
  • 営業コストの削減
  • 参入障壁の低下
  • 市場透明性の向上
  • 中小・スタートアップ企業の公共調達市場参入促進
  • 調達プロセスの簡素化により公平な市場アクセスが可能に

2. DMPの基本構造と仕組み

DMPの基本的な仕組み

DMPは、事業者がクラウドソフトウェア(SaaS)やその導入支援サービスを登録し、行政機関がそこから目的のサービスを検索・選定して簡易に調達できる仕組みです。

事業者

基本契約締結とカタログ登録

DMPカタログサイト

サービス情報の公開・検索

行政機関

サービス検索・選定

個別契約

選定事業者との調達契約締結

DMPに登録されるもの

DMPの調達対象は主に以下のものです:

  • クラウドソフトウェア(SaaS)
  • SaaSの導入支援サービス

※ハードウェアやドローン・センサーなどのデバイスは対象外
※受託開発が必要なSaaSは、ライセンスのみDMP調達可能

DMPに登録する情報

  • 価格表(標準価格情報)
  • サービス仕様(機能や特徴)
  • 利用規約(契約条件)
  • 導入支援サービス内容
  • アクセシビリティやセキュリティ情報
  • 提供会社情報

DMPの利用者と役割

行政機関・自治体(ログインあり)

  • フリー検索
  • 調達モード検索
  • 検索結果比較
  • 帳票ダウンロード
  • 事業者への問い合わせ

ソフトウェア会社(ログインあり)

  • ソフトウェアの登録
  • 販売サービスの登録(直販の場合)

販売会社(ログインあり)

  • 販売サービスの登録

一般利用者(ログインなし)

  • フリー検索のみ(価格情報の一部は非公開)

DMPの契約構造

デジタル庁・事業者間の基本契約

  • 事業者がDMPを利用するための基本条件を定めたもの
  • 契約期間は各年度末まで(毎年度更新が必要)
  • 登録情報はDMP事務局で確認
  • 最新情報の維持が必要

デジタル庁・行政機関間の利用規約

  • 行政機関がDMPを利用するための規約
  • 利用申請には各行政機関が管理するドメインのメールアドレスが必要
  • 行政目的以外の利用は禁止

行政機関・事業者間の個別契約

  • DMPで選定した事業者と行政機関の間で締結
  • 1者の場合は随意契約、複数者の場合は指名競争入札
  • 事業者が定める約款を含む

DMPカタログサイトの検索機能

一般検索と調達モード

DMPでは検索モードを使い分けることができます:

項目 一般検索(調達モードOFF) 調達モード(ON)
主な用途 技術調査・情報収集 実際の調達プロセス
検索項目 制限なし(自由に検索可能) 一部制限あり
使用可否 ログインなしでも使用可能 行政ユーザーのみ

調達モードとは:調達における公正性の観点から、特定のキーワードや会社名での検索、販売方式の検索項目が制限される状態のこと

主な検索項目

目的タグ

業務効率化、自治体向け、教育、医療など政策目的に応じたタグ

機能タグ

データ管理、セキュリティ、クラウド連携など機能に応じたタグ

セキュリティ・通信

ISMAP対応、マルチデバイス対応など

導入支援サービス

セットアップサービス、ヘルプデスクなど

利用規模

利用人数、価格帯など

カタログ掲載

他のカタログサイトへの掲載状況

3. DMPで変わる行政の調達プロセス

従来の調達プロセスとDMPの比較

従来の調達プロセス

1
詳細な調達仕様書の作成

膨大な調達仕様書の作成(数十~数百ページ)

2
入札公告の実施

入札公告・仕様書公開(1~2週間)

3
競争入札の実施

入札参加資格審査・開札・落札者決定

4
契約締結

落札者との契約手続き

課題点

  • 長い調達期間(3ヶ月以上)
  • 高い手続きコスト
  • 事業者の参入障壁
  • 既存ベンダーの有利化

DMPを活用した調達プロセス

1
調達仕様チェックシートの作成

簡素化された調達仕様の整理

2
DMPカタログサイトでの検索・選定

調達モードによる検索・比較・選定

3
伝票出力・選定結果の確定

調達のためのエビデンス出力

4
個別契約の締結

選定結果に基づく契約締結

メリット

  • 調達期間の短縮(最短数週間)
  • 手続きの簡素化
  • 多様な事業者の参入
  • 市場の透明性向上

ポイント: DMPは従来の調達仕様書に比べ簡素化された「調達仕様チェックシート」を使用します。 これにより調達条件をチェックボックス形式で整理しやすく、DMPカタログサイトでの検索にも反映しやすくなっています。

企画検討フェーズ

調達目的の明確化

政策目的に合わせたソフトウェア・サービスの要件整理

調達仕様チェックシート作成

調達仕様を簡素化されたフォーマットで整理

情報収集・市場調査

DMPの一般検索機能を活用した情報収集

製品選定フェーズ

調達モードでの検索

調達仕様チェックシートに基づく検索条件設定

事業者への問い合わせ

必要に応じた詳細仕様確認・見積依頼

比較検討・選定

検索結果からの候補選定と理由記録

伝票出力

調達エビデンスの出力・保存

契約フェーズ

契約方法の決定

選定結果に基づく契約方法の決定

  • 1者のみ:特命随意契約
  • 複数者:指名競争入札
  • 少額:少額随意契約

契約手続きの実施

選定結果に基づく契約手続きの実施

個別契約の締結

事業者の利用約款を含む契約書での締結

選定結果による契約方法

国の行政機関の場合

選定結果 契約方法 予定価格の目安
複数者 指名競争入札 160万円以上
少額随意契約 160万円未満
1者のみ 特命随意契約 予定価格によらず可

地方公共団体の場合

選定結果 契約方法 予定価格の目安
複数者 指名競争入札
(WTO対象外)
100万円以上
3600万円未満
指名競争入札
(WTO対象)
3600万円以上
少額随意契約 100万円未満
(地方公共団体により異なる)
1者のみ 特命随意契約 予定価格によらず可

※地方公共団体により基準額が異なる場合があります

WTO協定対象調達の留意点

WTO政府調達協定に基づく調達では、無差別待遇の原則遵守と国際約束との整合性確保が必要です。

  • 海外事業者を含むDMP未登録者からの参加申請があった場合、速やかな審査と参加機会確保が必要
  • 指名競争入札、随意契約の適用条件は各国の調達制度により異なる

4. 利用を始めるには何が必要?

事前準備

1

DMPカタログサイトへのアクセス

公式サイトにアクセスします:

www.dmp-official.digital.go.jp
2

ユーザー登録

行政機関としての登録を行います:

  • 行政機関のドメインメールアドレスが必要
  • 「go.jp」「lg.jp」または「地域型ドメイン」のみ登録可能
  • 行政機関向け利用規約に同意
3

必要に応じた規則等の改正検討

地方公共団体の場合は特に以下の点を検討:

  • 指名基準の作成(DMPカタログサイト登録をもとにした基準)
  • 入札参加資格の整備(国と同一基準の適用など)
  • 入札保証金・契約保証金の免除規定の検討

利用に必要なツールと資料

調達利用ガイドブック

DMPを利用した調達の手順や留意点をまとめたガイドブック。デジタル庁が提供。

調達仕様チェックシート

従来の調達仕様書を簡素化し、チェックボックス形式で整理したもの。DMPカタログサイトの検索項目に対応。

Q&A資料

よくある質問とその回答をまとめた資料。国の行政機関向けと地方公共団体向けに分かれている。

操作ガイドブック

DMPカタログサイトの具体的な操作方法をまとめたマニュアル。

入手方法

これらの資料はDMPカタログサイトの「行政向け利用ガイド」セクションからダウンロード可能です:

https://www.dmp-official.digital.go.jp/userguide/government/

DMPカタログサイト利用可能時期

2024年10月31日

DMP正式版カタログサイトリリース

ソフトウェア会社・販売会社向け機能リリース

  • ソフトウェアの登録
  • 販売サービスの登録
2025年1月30日

一般利用者向け機能リリース

ログインなしでのフリー検索機能の提供

  • 企画段階での情報収集が可能に
  • 価格情報などの一部情報は非公開
2025年3月末

行政機関向け調達機能リリース予定

行政機関がDMPを通じた調達に利用できる機能リリース

  • フリー検索
  • 調達モード検索
  • 検索結果比較
  • 伝票ダウンロード
  • 本格的なDMPを活用した調達開始

重要な留意点

  • DMPは効率的な調達を実現するツールですが、サイトに登録されている製品のみが調達対象となります
  • すでに調達し利用しているSaaSをDMP経由で調達する場合も、DMPに登録されている必要があります
  • 行政機関向け調達機能のリリースは2025年3月末の予定であり、それまでは実際の調達に使用できません

セキュリティに関する留意点

セキュリティ確認の考え方

DMPを利用する場合も、セキュリティ基準を遵守しているかどうかは各調達機関で確認する必要があります。

国の行政機関の場合

機密性2以上の情報を取り扱う場合、原則としてISMAP等クラウドサービスリストに登録されているソフトウェアを調達。

地方公共団体の場合

「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン(総務省)」を基準に判断。

機密性レベルによる対応

機密性 主な対象情報 セキュリティ基準
機密性3 秘密文書
個人情報(住民情報等)
ISMAP登録
厳格な確認が必要
機密性2 非公開情報
行政内部の情報
ISMAP推奨
情報セキュリティポリシーに従う
機密性1 公開情報
一般公開可能情報
通常のセキュリティ確認

※ISMAP:政府情報システムのためのセキュリティ評価制度

デジタル庁の取り組み

デジタル庁としても、ISMAP、ISMAP-LIUに登録されていないソフトウェアについては、再委託先情報、サーバー提供会社、リージョンなどを関係行政機関と連携の上確認し公開するスクリーニング作業を実施する予定です。

5. 今後の可能性と展望

調達市場の拡大

DMPの普及により行政のIT調達市場が拡大し、多様なベンダーの参入が促進されます。

  • 中小・スタートアップ企業の参入増加
  • 公共調達における新規ベンダー比率の向上
  • 英国の事例:大手6割・中小4割の調達バランス
  • 市場の透明性と競争性向上

行政サービスの進化

迅速な調達により、行政サービスのデジタル化が加速します。

  • 最新技術の素早い導入
  • アジャイル開発の促進
  • ユーザー中心のサービス設計
  • 自治体間でのベストプラクティス共有
  • サービス品質の向上
  • 国民へのより良いサービスの迅速な提供

ソフトウェア産業振興

DMPを通じた調達改革により、日本のソフトウェア産業全体が活性化します。

  • SaaS市場の拡大
  • クラウドファースト政策の推進
  • プロダクト型ビジネスの促進
  • イノベーションの加速
  • ソフトウェア品質の向上
  • 国際競争力の強化

DMPの機能拡張予定

検索機能の高度化

より詳細な条件での検索やAIを活用した最適なソフトウェア推奨機能の追加

データ分析・レポーティング

調達状況や市場動向の分析機能、導入実績の共有、満足度評価システムの導入

契約手続きの電子化

選定から契約締結までのプロセスをオンライン化し、さらなる効率化を実現

対象範囲の拡大

クラウドサービス以外の分野への拡大や、より複雑なサービスの調達への対応

行政機関の役割と取り組み

DMPを最大限に活用するための行政機関の取り組み:

職員のデジタルリテラシー向上

DMPや最新のクラウドサービスに関する知識習得、研修の実施

調達プロセスの見直し

DMP活用を前提とした調達フローの整備、規則の適切な改正

フィードバックの提供

DMPの改善に向けた意見・要望の積極的な提供

組織間の連携強化

デジタル庁や各省庁、地方自治体間での情報共有と連携

DMPが目指す行政調達の未来像

スピーディな調達

調達期間を数ヶ月から数週間へと大幅に短縮し、迅速なサービス提供を実現

高い透明性

市場の可視化により調達の透明性が向上し、最適なサービス選定が可能に

多様な選択肢

中小・スタートアップ企業の参入により多様なサービスから選択可能に

デジタル庁の長期ビジョン

DMPを中核とした行政IT調達の変革により、行政サービスのデジタル化を加速し、国民により良いサービスを迅速に提供できる環境の構築を目指しています。DMPの成功は、行政機関と企業との連携によって実現します。

まとめ

デジタルマーケットプレイス(DMP)は、行政のIT調達を革新する重要な取り組みです。SaaSの調達迅速化と多様なベンダーの参入を促進することで、より効率的で透明性の高い調達環境を実現します。

DMPの5つのポイント

調達プロセスの大幅な簡素化 - 従来の複雑な調達手続きを簡素化し、調達期間を短縮

多様なベンダーの参入促進 - 中小企業やスタートアップの公共調達市場への参入を容易に

クラウドサービス導入の促進 - SaaSなどのクラウドサービスの導入を加速

公平で透明性の高い調達 - カタログサイトを通じた透明性のある選定プロセス

行政サービスの迅速な進化 - 最新技術を素早く導入し、質の高い行政サービスを提供

オススメ機能
導入事例バナー
導入事例バナー
上部へスクロール