自治体の住民問い合わせAIはどこで使われる?電話・Web・LINE・庁舎端末の7つの利用例
「チャットボット以外に、住民問い合わせAIがどこで使われているのかを知りたい」
「手続き案内、担当課への取次、相談窓口案内で、AIが実際に何をするのかを知りたい」
「導入後に変わる仕事と、正しい案内を続けるための運用を事例から確かめたい」
住民問い合わせAIは、住民が制度名や担当課名を知らなくても、必要な手続き情報や相談先へ案内する仕組みです。自治体では、電話、Web、LINE、相談チャット、庁舎の案内端末で使われています。その場で質問に答える場合もあれば、担当課や相談窓口へつなぐ場合もあります。住民問い合わせAIって、ホームページのチャットボット以外では、どこで使われているんですか?
市民課の直通電話や代表電話、公式LINE、福祉の相談チャット、庁舎の案内端末でも使われているよ。使う場所によって、手続きを案内するのか、担当課へつなぐのか、相談窓口を示すのかが違うんだ。
なるほど。では、どれも住民の質問にその場で答える仕組みなんですか?
そうとは限らない。手続きの持ち物を答えるものもあれば、代表電話で用件を聞いて担当課へ転送するだけのもの、困りごとに合う相談窓口を示すものもあるよ。
なるほど。では、導入効果も同じ数字では比べられないんですね。
その通り。手続きへの回答なら、職員へ転送せずAIとの通話で終わった割合を見る。代表電話なら職員が取り次いだ件数、時間外対応なら閉庁後の利用件数を見る。使い方に合う数字を選ぶ必要があるんだ。
住民問い合わせAIは、電話、Web、LINE、相談チャット、庁舎端末で、手続きへの回答、担当課への転送、時間外案内、相談窓口・庁舎窓口の案内に使われています。冒頭の図解では、住民が次の行動へ進むまでと、導入後に確かめる数字、公開後に職員が続ける仕事を一つにつないでいます。

「市役所から封筒が届いたけれど、まず何をすればいいですか」「引っ越しの手続きには何を持っていけばいいですか」「このごみは、どうやって出せばいいですか」。住民から寄せられる問い合わせは、制度名や担当課名ではなく、生活の中で起きたことから始まります。
これまで、担当課が分からない人は市役所の代表電話へかけ、電話を受けた職員が用件を聞いて担当先を調べていました。ホームページで自分で探す場合も、「再交付」という行政側の言葉を知らなければ、必要なページへたどり着けないことがあります。子育てや福祉の相談では、そもそも何という制度を探せばよいのか分からず、相談先を見つける前に止まってしまう人もいます。庁舎まで来た後に、最初に並ぶ窓口が分からないこともあります。
住民問い合わせAIは、こうした「最初の案内」を受け持つ仕組みです。自治体の公開事例では、ホームページのチャットボットだけでなく、市民課の直通電話、代表電話、公式LINE、匿名の相談チャット、庁舎内の案内端末に置かれています。その場で質問に答えるのか、担当課へ転送するのか、相談できる窓口を示すのかは、住民が次に必要とする行動によって変わります。
第1章は、住民問い合わせAIがどこで何に使われているのかを全体像として示します。第2章と第3章は、手続きや生活情報の案内、担当課への転送、時間外の電話、相談窓口案内という具体的な使い方を、自治体事例で詳しく説明します。第4章以降は、導入後の変化、最初に試す問い合わせの選び方、正しい案内を続けるために職員が行うことを扱います。
第1章
住民問い合わせAIが使われている場所と主な用途
市民課の直通電話、24時間専用番号、代表電話、Web、LINE、相談チャット、庁舎端末で、手続き案内、時間外のAI回答・折り返し・かけ直し、情報検索、取次、相談先案内、庁舎案内に使われている住民問い合わせAIは、自治体ホームページのチャットボットだけではありません。市民課の直通電話や市役所の代表電話、公式LINE、福祉の相談チャット、市役所入口の案内端末でも使われています。住民が制度名や担当課名を知らなくても、普段の言葉で質問や用件を伝えられる窓口になっています。
使われ方は、設置する場所によって異なります。市民課の直通電話では、届いた通知の手順や窓口へ持っていくものなど、繰り返し寄せられる質問に答えます。24時間受け付ける専用番号では、職員が電話を受けられない時間帯にもAIが答え、答えられないときは職員からの折り返しや、開庁後のかけ直しを案内します。代表電話では、住民の用件を聞いて担当部署へ転送します。
自治体ホームページでは、普段の言葉から子育て制度や手続きを探せます。公式LINEでは、市の情報を文章で尋ねたり、ごみの写真から分別方法を調べたりできます。福祉の相談チャットは困りごとに合う相談先を示し、庁舎の案内端末は階や窓口番号、持ち物を案内します。
AIに任せる範囲も一律ではありません。一般的な案内にはその場で答え、本人の状況を確かめなければ答えられない質問は職員へつなぐ例があります。代表電話のように、AIが質問へ回答せず、担当部署への取次だけを受け持つ例もあります。

電話・Web・LINE・庁舎端末で使われている7つの例
本文で詳しく扱う自治体を地図に置くと、同じ地域でも、直通電話で手続きに答える自治体、代表電話で担当課へつなぐ自治体、WebやLINEで公式情報を探せるようにする自治体があります。

地図に載せた入口を、AIが何をするかまで整理すると、次の7つです。
| 使われている場所 | そこでAIがしていること | 扱う問い合わせ・情報の例 |
|---|---|---|
| 市民課の直通電話 | よくある手続き質問に答え、個別事情がある質問は職員へつなぐ | 通知後の手順、持ち物、マイナンバーカード |
| 手続きを24時間受け付ける専用番号 | 職員が電話を受けられない時間にも答え、自治体によっては折り返しや開庁後のかけ直しを案内する | 住所異動、証明書発行、戸籍、ごみ分別 |
| 市役所・保健所の代表電話 | 住民の用件を聞き、担当部署や区役所へ転送する | 税や戸籍の担当課、保健所内の担当部署 |
| 自治体ホームページ | 普段の言葉から、制度や手続きの情報を探して示す | 子育て制度、申請方法、よくある質問 |
| 公式LINE | 文章から市の情報を探し、ごみの写真から分別候補を示す | 市ホームページ、ごみの種類と出し方 |
| 福祉の相談チャット | 困りごとを聞き、合う担当課や相談機関を案内する | 子育て、介護、生活上の困窮 |
| 庁舎入口の案内端末 | 来庁目的から、階・窓口番号・持ち物を案内する | 住民票を受け取る窓口、本人確認書類 |
同じ電話でも、市民課の直通電話はよくある質問への回答、代表電話は担当部署への取次に使われています。Web上の対話も、子育て制度を調べるものと、福祉の相談先を探すものでは、住民がたどり着く先が違います。住民問い合わせAIは、一つの製品名ではなく、住民が最初の答えや担当先を見つけるまでの、複数の用途に使われています。
第2章では、手続き、生活情報、子育て制度、庁舎内の窓口をその場で案内する使い方を扱います。第3章では、代表電話から担当課へ転送する使い方と、職員が電話を受けられない時間帯にAIが答える、折り返す、開庁後のかけ直しを案内する使い方、福祉の相談窓口を示す使い方を扱います。続く章では、導入後に何が変わったのか、どの問い合わせから試すのか、公開後に職員が何を続けるのかを説明します。
第2章
手続きや生活情報を案内する使い方
市役所の電話では手続き、LINEでは市の情報やごみ分別、自治体サイトでは子育て制度、庁舎端末では窓口番号と持ち物を案内している住民問い合わせAIは、手続きや生活情報をその場で確かめる窓口としても使われています。具体例は、市役所の電話での手続き・持ち物案内、公式LINEでの市の情報・ごみ分別案内、自治体サイトでの子育て制度検索、庁舎端末での窓口番号案内です。
住民は、普段使う言葉や写真から、国や自治体が公開している情報へたどり着けます。一般的な手順や持ち物はAIが案内し、本人の状況によって答えが変わる質問や、本人確認を伴う手続きは職員が対応します。
市役所の電話で、よくある手続きにAIが答える
北九州市の小倉北区役所市民課市民係には、月に約3,400件の電話が入り、そのうち約1,700件がマイナンバーカードに関する問い合わせでした。住民が知りたいのは、通知書が届いた後に何をすればよいか、窓口へ何を持っていけばよいかといった、手続きを始める前の情報です。同じ説明が繰り返される一方、窓口で来庁者に対応している職員の仕事は、そのたびに電話で中断されていました。
導入した電話AIは、最初に住民の用件を聞きます。交付通知書や電子証明書の有効期限通知書が届いた後の手順、一般的な持ち物などは、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)やデジタル庁のFAQに、北九州市の窓口情報を加えて音声で案内します。一方、マイナ保険証が使えない原因、代理受け取り、特急発行など、本人の状況によって答えが変わる質問は職員へ転送します。転送先の職員には会話の要約が渡り、用件を把握した状態で応対を始められます。
北九州市は、「マイナンバーカードの問い合わせ」を一括してAIへ渡していません。同じ業務の中で、通知後の一般的な手順と、個別事情の確認が必要な質問を分けています。この運用で、対象となるマイナンバーカード関連の直通電話の約半分がAIだけで完結しました。住民は定型的な質問なら電話の中で必要な情報を得られ、職員は事情を聞かなければ答えられない電話から対応を始められます。
対象を広げた例もあります。福島市は、住所異動、証明書発行、戸籍届出など、市民課へ繰り返し寄せられる質問を24時間受け、約1か月の実証で対象通話の60%がAIだけで完結しました。長浜市は専用番号を設け、ごみ分別、戸籍届出、コンビニ交付、マイナンバーカード、障害福祉サービスという5分野へ24時間回答し、3か月の186件中157件、約84%で明確な回答に至りました。福島市の60%は人へ移らずに通話を終えた割合、長浜市の約84%は明確に答えられた件数で、同じ指標ではありません。どちらも市役所のすべての問い合わせから始めず、質問が繰り返され、案内内容をそろえやすい範囲から試しています。
一般的な持ち物を答える電話でも、質問の途中で本人の事情が加わると、職員へ渡す必要があります。次のマンガでは、AIが回答を止め、会話の要約を引き継ぎ、職員が個別条件を確認するまでを追います。

公式LINEで、市の情報やごみの分別方法を調べる
電話以外では、住民が普段使っているLINEから質問できるようにした事例があります。厚木市は2026年4月、公式LINEを全面的にリニューアルし、自由な文章で質問できるAIチャットボットと、ごみの写真を認識する機能を加えました。住民は品目名が分からなくても写真を送り、判定されたごみの種類と出し方を確認できます。チャットの回答には、市ホームページの情報が使われます。
厚木市の公式LINEには、防災情報の自動配信など、AIとは別の機能もあります。AIが受け持つのは、自由文から市ホームページの情報を探すことと、ごみの画像から分別候補を示すことです。質問した人はAIの回答やごみ分別結果を確認します。
この事例の特徴は、住民が「市役所のAIを使おう」と意識しなくても、日常的に開くLINEから質問できることです。文章で尋ねた人は公式情報を確認し、ごみの写真を送った人は分別方法を確かめます。

自治体サイトで、子育て制度や手続きを調べる
子育てに関する制度や手続きは、情報が市ホームページに載っていても、制度名を知らなければ探しにくいことがあります。天草市は、子育てに関する手続き、制度、よくある質問を、会話に近い文章で検索できる「子育て応援AIコンシェルジュ」を市ホームページに設置しました。2026年2月から3月の実証を経て、5月から本格運用し、24時間365日利用できるようにしています。
住民は、短いキーワードを選ぶのではなく、知りたいことを普段の言葉で入力します。AIは質問の意図を読み取り、関連する制度や手続きの情報を対話形式で示します。夜に子どもの手続きについて気になった人も、開庁時間を待たずに説明を確認し、申請や問い合わせの準備を進められます。
天草市の例でAIが案内するのは、子育ての制度や手続きに関する行政情報です。次章で扱う福祉相談の事例では、困りごとを聞いて相談窓口を探します。同じ文字での対話でも、制度や手続きを調べるのか、相談できる窓口を見つけるのかで、AIを使った後の行動が異なります。

庁舎の案内端末で、窓口番号と持ち物を確認する
問い合わせAIは、市役所へ着いた後の総合案内にも使われています。庁舎に来た人が最初に知りたいのは、制度全体の説明より、「何階の何番窓口へ行くのか」「最初に何を持っていくのか」という、その場で次に動くための情報です。
那覇市は2026年4月20日から5月21日まで、市役所1階に生成AIを使った案内端末を置きました。画面には、かりゆしウェアを着たデジタルヒューマンが表示され、来庁者は日本語または英語で用件を話します。回答は音声だけでなく、画面上の文字でも確認できます。
公開された実演では、来庁者が「住民票を受け取りたい。どのカウンターですか」と尋ねると、端末は「本庁舎1階、ハイサイ市民課17番窓口」と答え、本人確認書類を持参するよう案内しました。来庁者は、行き先と準備物をその場で確かめてから、17番窓口へ向かいます。端末が受け持つのは、庁舎に入ってから受付窓口へ向かうまでの案内です。その後の本人確認や手続きは、窓口の職員が行います。
那覇市が実証で確かめたのは、来庁目的に合う窓口と持ち物を案内できるかです。電話で質問へ答える事例のように、職員へ転送せず問い合わせが終わった割合を測ったものではありません。

第3章
担当課への転送、時間外の電話、相談窓口案内の使い方
代表電話では担当課へ転送し、職員が電話を受けられない時間帯にはAIが答えるか折り返し・かけ直しを案内し、福祉相談では困りごとに合う窓口を示している代表電話や時間外の専用番号では、住民の用件と職員が電話を受けられる時間に合わせて、その後の対応が変わります。代表電話では担当課へ転送し、職員が電話を受けられない時間帯には、AIがその場で答える、連絡先を預かって職員が折り返す、開庁後にかけ直してもらうといった方法が使われています。
福祉の相談チャットでは、困りごとを文字で聞き、相談できる窓口を示します。住民の次の行動は、AIの案内で用件を終える、その場で担当課と話す、折り返しを待つ、開庁後にかけ直す、自分で相談窓口へ連絡する、のいずれかです。

市役所の代表電話で、AIが用件を聞いて担当課へ転送する
桑名市では、担当部署が分からない住民からの電話が市役所の代表番号へ入り、総務課の職員が用件を聞いていました。職員は市の公式サイトで担当課を調べ、該当する部署へ電話を転送します。6課を番号で選ぶボタン式の音声案内も導入していましたが、どの番号を押せばよいか分からない人や、番号を選ばない人の電話は総務課につながるため、手動の取次は残っていました。
担当職員の実感では、こうした電話が1日に約20件あり、担当先を調べてつなぐまで1件に5〜10分かかっていました。
そこで桑名市は、300件を超えるQ&Aを登録し、住民が話した用件を音声で認識して担当部署へ転送する仕組みに変えました。住民は部署名を調べたり、番号を選んだりせず、税や戸籍に関する用件を自分の言葉で伝え、そのまま担当課と話せます。担当職員は、総務課に着任してからの体感として、手作業の取次が1日約20件から約5件へ減ったと振り返っています。
福岡市の保健所代表電話でも、2026年2月から3月に、AIが用件を聞いて保健所内の部署や区役所へ転送する実証が行われました。この実証では、AIは問い合わせへの回答を行わず、取次だけを担当しています。両市に共通するのは、代表電話でAIの役割を回答ではなく取次に置いた点です。桑名市は300件を超えるQ&Aで転送先を判定し、福岡市は全件を取次の対象にしました。

職員につながらない時間帯は、AIが答えるか、折り返し・かけ直しを案内する
担当職員が電話を受けられない時間帯には、AIがその場で答える、用件を預かって職員の折り返しへ渡す、次の開庁時間にかけ直すよう案内する、という選択肢があります。一関市は2026年3月、市民課への専用番号で、マイナンバーカード、転入・転出、住民票や戸籍の証明、印鑑登録、戸籍に関する質問を24時間受ける電話AIを始めました。
AIは、RAG(自治体が用意した情報を検索し、回答に使う仕組み)を中心に、住民の質問を自然な文章で受け取ります。回答できる質問にはその場で案内し、答えられない場合は連絡先を聞いて、担当職員が後から折り返します。
世田谷区は、電話番号と時間帯によって接続方法を分けました。専用番号は24時間、既存の「せたがやコール」は午後9時から翌朝8時までAIだけで応答し、職員へは取り次ぎません。太子堂出張所の電話は、開庁時間内なら利用者が「職員へつないで」と伝えて転送でき、時間外は開庁後のかけ直しを案内します。
開庁時間内に担当課へつなげる電話なら、そのまま転送できます。一関市の24時間専用番号は、答えられる質問にはAIが案内し、答えられない質問では次の開庁時間の折り返しへつなぎます。世田谷区の時間外電話は、番号によってAIだけで答えるか、開庁後のかけ直しを案内します。電話の受付時間、転送先の勤務時間、職員が後から用件を受け取れるかによって、住民へ示す次の行動が変わります。
福祉の相談チャットで、困りごとに応じた相談窓口を案内する
子育て、介護、生活上の困窮などの相談では、住民が制度名や担当課名を知らないことが珍しくありません。窓口が閉まっている夜や休日に相談したくなることもあれば、対面や電話では話し始めにくいこともあります。この段階で必要なのは、一般的な制度説明だけでなく、自分の状況を相談できる場所を見つけることです。
白河市は、福祉の困りごとをパソコンやスマートフォンから匿名の文字で相談し、内容に応じた担当課を案内するAI窓口を3か月間試しました。同じサービスを使う他自治体では、老老介護、子育て、経済的困窮などの相談例があります。開庁時間外や、対面では話し始めにくいときにも、相談内容を文字で伝え始められます。
千葉県の住民向けチャットボットは、入力された困りごとや状況を聞きながら、県の相談機関などを登録したデータベースとFAQから、合う福祉相談窓口を案内します。住民は示された窓口を確認し、そこで人へ相談します。
本格導入後の約1か月で約750件の利用があり、利用後の5段階評価で3以上を付けた割合は約90%、正しい窓口へ案内されたと感じた人は約70%でした。約750件は利用件数、90%と70%は利用後アンケートの結果で、同じ分母ではありません。約70%は、AIが悩みを解決した割合ではなく、案内された窓口が合っていたと利用者が評価した割合です。
代表電話では、AIが用件と部署の対応表を使い、その場で担当課へ転送します。福祉相談では、本人の困りごとを少しずつ聞き、複数の相談機関から連絡先を示します。前者では電話がそのまま担当課へつながり、後者では住民が表示された窓口へ連絡します。相談先のデータには、窓口一覧だけでなく、どのような困りごとをどの相談先へ案内するかも登録します。
第4章
導入後の変化は、使い方に合う数字で確かめる
電話回答、担当課への取次、時間外案内、Web検索、相談窓口案内では、導入後の変化を確認する数字が異なる導入効果は、すべてを「問い合わせが何割減ったか」で比べられません。電話で質問へ答えた事例では、職員へ転送せずAIとの通話で終わった件数を見ています。代表電話では職員が手作業で取り次いだ件数、時間外案内では閉庁後の利用件数、WebではFAQの閲覧数を見ています。
同じ割合でも、AIに任せた内容、測定期間、何をもって対応できたとしたのかが違えば、数字の意味は変わります。公開事例の数字は、どの対応の変化を表すのかが分かるよう、対象業務や判定方法と一緒に示します。

違いは、数値の大小ではなく、AIに任せた仕事と数え方にあります。手続き電話ならAIだけで終わった通話、代表電話なら手作業の取次、時間外案内なら閉庁後の利用というように、使い方に対応する数字を選びます。
| 使い方 | 確認に使われた数字 | 数字から分かること |
|---|---|---|
| 市民課の質問に答え、個別事情がある場合だけ職員へ転送する(北九州市・福島市) | 職員へ転送せず、AIとの通話で終わった件数・割合(自己完結率) | 一般的な質問を職員が受けず、AIの案内だけで通話が終わった量 |
| ごみ・戸籍など5分野の質問に答える(長浜市) | 明確な回答に至った件数 | 職員へ転送したかではなく、質問へ明確な案内ができた量 |
| 代表電話を担当課へ転送する | 職員が手作業で取り次いだ件数・時間 | 総入電数ではなく、案内役の職員が間に入った仕事量 |
| 閉庁後や休日にも電話で案内する | 時間帯別の利用件数 | 職員が電話を受けにくい時間に利用された量 |
| Webで公式情報を探せるようにする | FAQアクセス、答えが出なかった検索語 | 公式情報が読まれた量と、検索で止まった箇所 |
| 困りごとに合う相談窓口を案内する | 利用件数、案内先への利用者評価 | 案内された相談窓口が合っていたかという利用者の評価 |
割合で示された数字でも、何をもって対応できたとしたのかは事例ごとに違います。職員へ転送せずに通話が終わった割合、質問へ明確に答えられた割合、案内された相談窓口への評価は、横並びの順位にはできません。数字の意味は、対象にした問い合わせ、電話やチャットの種類、測定期間、判定方法によって決まります。代表電話の取次は、割合ではなく、職員が手作業で間に入った件数と時間で捉えます。
袋井市では、電話AIへの問い合わせの約3割が時間外・休日だった
袋井市は、マイナンバーカードの取得と電子申請を促す期間限定キャンペーンで電話AIを使いました。問い合わせをキャンペーンの応募方法、マイナンバーカード、電子申請に絞り、2020年12月20日から2021年1月31日までに約150件へ自動応答しました。そのうち約3割は、閉庁後または土日の電話でした。
この結果が示すのは電話削減率ではなく、職員が応答できない時間にも住民が案内を利用したことです。開庁時間内は内容に応じて担当窓口へ転送し、時間外は定型情報を案内しました。常設の代表電話だけでなく、問い合わせ内容と実施期間がはっきりした施策でも、閉庁後や休日の問い合わせ先として電話AIを使えます。
名古屋市は、WebのFAQとコールセンター増強を同時に進めた
名古屋市のワクチン関連FAQでは、Webの利用量と電話体制の両方が公表されています。市は約190件の記事を用意し、市ホームページと接種券に同封した案内のQRコードからFAQへ誘導しました。これとは別に、時間外の入電には自動応答とSMSで市サイトを案内しました。FAQへのアクセスは1日最大7,000件に達し、市は同数の電話を抑えたと換算しています。ただし、7,000件は閲覧数であり、個々の利用者が疑問を解決したことを追跡した数字ではありません。
名古屋市はコールセンターを125回線から最大400回線へ増やしており、ピーク時を含む85%以上の電話応答率は、FAQと回線増強を組み合わせた結果です。85%はFAQ単独の削減率ではなく、公式情報をWebで確認できるようにしたことと、電話を受ける体制を同時に整えた結果を表します。
第5章
自分の自治体では、どの問い合わせから試すか
同じ質問が集中する直通電話、取次に時間がかかる代表電話、閉庁後、Web検索、福祉相談、庁舎案内から、最初の対象を一つ選ぶ最初から、市役所のすべての問い合わせを対象にする必要はありません。市民課の直通電話に同じ質問が集中している、代表電話の取次に時間がかかる、閉庁後に問い合わせ先がない、公式ページを見つけにくい、といった具体的な困りごとを一つ選びます。
次に、AIに何をさせるか、答えられないときに住民をどう案内するか、どの公式情報を使うか、何を見て結果を確かめるかを決めます。電話AIかチャットボットかという製品の種類は、その後に選びます。

直通電話・代表電話・Web・相談・庁舎案内から、最初の対象を選ぶ
同じ質問が繰り返される場所もあれば、担当課を調べて電話をつなぐことに時間がかかる場所もあります。住民がどこで困り、職員がどの対応に時間を使っているかによって、AIに任せる内容と最初に試す範囲が変わります。
| 現場の困りごと | AIに任せること | 最初に対象とする範囲 |
|---|---|---|
| 市民課の直通電話へ、同じ手続き質問が繰り返し入る | よくある質問に答え、個別事情がある質問は職員へ転送する | マイナンバーカード、住所異動など、回答をそろえやすい手続きと直通番号 |
| 代表電話で、職員が担当課を調べて取り次いでいる | 住民の用件を聞き、担当部署へ転送する | 代表番号に入る主な用件と、接続先になる担当部署 |
| 期間限定施策や閉庁後に、問い合わせ先がない | 専用番号で時間外にも案内し、開庁中は担当窓口へ転送する | 施策の実施期間、対象番号、AIが電話を受ける時間帯 |
| 公式情報はあるが、住民が検索で見つけられない | 日常の言葉からFAQや公式ページを探す | 検索対象にする公式ページ、PDF、FAQの範囲 |
| 福祉の困りごとを、どこへ相談すべきか分からない | 状況を聞き、相談できる窓口を案内する | 対象にする困りごとと、案内先にする相談機関 |
| 来庁者が、最初の窓口を探している | 用件から階・窓口番号・持ち物を案内する | 一つの庁舎と、案内する窓口・手続き・言語 |
まず、電話やチャットの件数を、時間帯、用件、AIが答えたのか、担当課へ転送したのか、職員が折り返したのかに分けて確認します。同じ手続き質問が集中しているのか、担当課を探す取次に時間がかかっているのか、閉庁後に問い合わせ先がないのかが分かれば、対象にする電話番号やWebページを決められます。
次に、AIが答えられないときの案内と、回答に使う情報を決めます。その場で担当課へ転送するのか、連絡先を預かって職員が折り返すのか、次の開庁時間を伝えるのかによって、住民の待ち方も職員の受け方も変わります。国のFAQへ自治体の窓口情報を加える、公式ページとPDFを参照させる、相談窓口のデータベースを用意するといった準備も、対象にする問い合わせに合わせます。
公開事例では、一つの直通電話、一つの手続き、期間限定施策、特定の時間帯など、範囲を区切った実証が多く見られます。小さく始めると、AIが答える質問、職員へ渡す質問、使う公式情報をそろえたうえで、導入後に何が変わったかを同じ範囲で確かめられます。
第6章
正しい案内を続けるために、職員が行うこと
公式ページやQ&Aを更新し、答えられなかった検索語、電話の使いにくさ、転送時の引継ぎ、録音やチャット履歴の扱いを見直すAIを公開した後も、制度の内容、受付期間、必要書類、窓口の場所は変わります。住民が使う言葉も、自治体がホームページやFAQに書いた制度名と同じとは限りません。
職員は、AIが回答に使う公式ページやQ&Aを更新し、答えられなかった質問や電話の使いにくさを確認します。録音やチャット履歴については、何に使い、どこまで収集するのかも決めます。

AIの回答に使う公式情報と、参照元の表示を確認する
生成AI型のチャットボットでも、回答の正しさは、自治体が管理する情報に左右されます。滝沢市では、公式ホームページと掲載PDFを回答に使っています。各課の職員は全職員共有のExcelへ不足を申告し、担当部署が新しいQ&Aを追加します。職員は、ホームページの内容を更新し、足りないQ&Aを追加しています。
尾道市の実証では、事前にQ&Aを作らずに始められることに加え、回答の根拠となるURLが表示される点が評価されました。その後の改善項目には、回答精度だけでなく、公式ページを自動取得する処理(クローリング)も挙げられています。担当者は、どのページを回答に使っているか、ページを更新した後の内容がAIへ反映されているかを確かめます。
武雄市が住民向けAIチャットボットの優先交渉権者を選んだ際も、参照元の表示、職員が知識を登録しやすいこと、多言語対応が評価項目に入りました。これは稼働後の効果ではなく、選定段階で置かれた条件です。AIが回答を作れることだけでなく、職員が根拠を確かめ、必要な情報を追加できることまで調達時に見ています。
検索語と問い合わせ記録から、FAQを追加・修正する
名古屋市のFAQでは、「紛失」「なくした」と検索した住民を「接種券の再発行」の記事へ案内できるようにしました。住民が制度上の言葉を知らなくても、日常の言い方から回答へ進めるようにしたものです。公開後は、答えが出なかった検索語を集中的に見直し、FAQを追加・修正しました。
同市の総合案内コールセンターには、住民票、戸籍、医療、健康保険など年間約6万件の問い合わせがあります。通話記録からFAQ作成を支援する「Q&A Generator」は、その通話や利用者の声から、住民がどのような聞き方をするか、どの質問が一緒に出てくるか、オペレーターが説明するときに何へ注意しているかを拾い、FAQの作成と修正へ使います。
一関市は管理画面で問い合わせ内容を分析し、足りない案内を見つけて、元になる公式情報やQ&Aを修正します。
AIが答えられなかった質問は、失敗の記録で終わりません。次のマンガでは、住民の言い方を公式情報へ結び直し、同じ質問でもう一度確かめるまでを描きます。

電話AIは、回答内容だけでなく会話の長さと転送も試す
文章で読むと短い案内でも、音声で聞くと長く感じることがあります。北九州市の実証では、音声が聞き取りやすいという反応がある一方で、説明が長い、AIの発話へ途中で割り込めない、話し終わりをAIが判断するまでの2秒以上の間が長く感じられるという声も出ました。回答内容が正しいだけでは、使いやすい電話応対になりません。
袋井市は、職員が作った応答シナリオを公開前に実際の電話で再生し、分岐を一つずつ試しました。採用決定から自動応答開始までの設定作業は約1日でしたが、短期間で始められたことと、試験を省いたことは同じではありません。どの言葉で次の質問へ進むか、誤った窓口へ転送されないかを、住民と同じ電話操作で確かめています。
桑名市では、導入初期に「AIへ話した用件を転送先の職員にも把握してほしい」という声がありました。北九州市は、職員への転送時に会話の要約を渡し、システム障害時の手順とバックアップ体制も準備しています。回答文、会話の長さ、転送先へ渡す情報、停止時の電話の受け方まで一緒に試します。

録音・チャット履歴は、利用目的と収集範囲を決める
通話やチャットの記録は、答えられなかった質問の発見、転送先の見直し、実証結果の確認に使えます。世田谷区は、実証時の会話を録音などの方法で記録し、効果検証に使うことを利用案内に明記しました。何を記録し、誰が何のために見るのかを利用者へ伝えることが、改善の前提になります。
福祉の困りごとは、個人情報を含みやすい領域です。千葉県の住民向けチャットボットは、氏名など個人を特定できる情報を入力しないよう画面で案内し、入力内容を外部へ共有せず、生成AIの学習にも使わない仕様にしています。記録を多く残すほどよいのではなく、相談窓口を案内するために必要な入力と、収集しない情報を分けています。
まとめ
使う場所と用途を決めてから、AI製品を選ぶ
直通電話、代表電話、Web、LINE、相談チャット、庁舎端末のどこで、AIに何を任せるのかを先に決める住民問い合わせAIは、ホームページのチャットボットだけを指す言葉ではありません。市役所の電話では、よくある手続きに答えたり、住民の用件を聞いて担当課へ転送したりします。WebやLINEでは制度や生活情報を探し、相談チャットでは福祉の相談窓口を示し、庁舎端末では階や窓口番号、持ち物を案内します。
導入後に確かめる変化も、使い方によって異なります。手続きへの電話回答なら職員へ転送せずに終わった通話、代表電話なら職員が手作業で取り次いだ件数、時間外案内なら閉庁後や休日の利用件数を確認します。AIに任せた内容、測定期間、対応できたと判定した条件が違うため、同じ割合でも意味は同じではありません。
最初に選ぶのは、市民課へ同じ質問が集中している、代表電話の取次に時間がかかる、公式ページを見つけにくいといった、具体的な困りごとです。AIが答えられないときの案内、回答に使う公式情報、公開後に情報を更新する担当も決めます。そのうえで、電話AI、Webチャット、LINE、庁舎端末のどれが合うかを選びます。
References
参考にした公開情報・関連レポート
電話、Web、LINE、庁舎端末での使われ方と、対象業務、公開された効果、正しい案内を続けるための更新・引継ぎ・記録の運用を確認できる主な公開情報です。電話やチャットなど各方式の詳しい設計は、末尾の関連レポートで扱っています。
名古屋市: Helpfeel
出典元の記事を読む名古屋市: AIチャットボット・Q&A Generator
出典元の記事を読む北九州市: Graffer AI オペレーター
出典元の記事を読む福島市: DNP 電話AIサービス
出典元の記事を読む桑名市: IVRy
出典元の記事を読む長浜市: AI電話対応さくらさん
出典元の記事を読む袋井市: MOBI VOICE
出典元の記事を読む福岡市: Graffer AI オペレーター
出典元の記事を読む一関市: easyPhone
出典元の記事を読む世田谷区: 生成AIを活用した電話自動応答の実証実験
出典元の記事を読む滝沢市: ChatPlus
出典元の記事を読む尾道市: パブテク AIチャット
出典元の記事を読む武雄市: OPTiM AIRES
出典元の記事を読む厚木市: GovTech Express
出典元の記事を読む天草市: 子育て応援AIコンシェルジュ
出典元の記事を読む白河市: AI相談窓口
出典元の記事を読む那覇市: 生成AI窓口案内
出典元の記事を読む総務省: 千葉県の福祉相談AI事例
出典元の記事を読む関連レポート: AI電話対応
出典元の記事を読む関連レポート: 住民向けAIチャットボット
出典元の記事を読む関連レポート: AI翻訳・多言語対応
出典元の記事を読む関連レポート: AI受付ロボット・案内
出典元の記事を読む関連レポート: 窓口DX
出典元の記事を読む関連レポート: 申請審査支援AI
出典元の記事を読む