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公会計制度とは

目次 

公会計制度とは

公会計制度とは、国や地方公共団体(自治体)における会計基準・会計処理の方法のことです。地方自治体が所有する資産・負債や資金の流れに関する情報を、総体的・一覧的に把握し、従来の「現金主義」による予算・決算制度を「発生主義」により補完することを目的として整備されています。

公会計制度の基本概念

公会計制度は、地方自治体の財政を管理するための会計制度です。主に、公共の資金をどのように収支しているかを透明に示し、公共サービスの提供に必要な予算を効率的に運用することを目的としています。企業会計と異なり、営利目的ではなく、公共の利益を最優先に考えます。

現金主義会計と発生主義会計の違い

項目 現金主義会計 発生主義会計
記録タイミング 現金の出入りがあった時点 経済的事象が発生した時点
把握できる情報 現金収支のみ 資産・負債・費用・収益
メリット 分かりやすい、シンプル 正確なコスト把握、資産管理
課題 隠れたコストが見えない 専門知識が必要

公会計制度の歴史と統一的な基準

地方公会計制度は段階的に発展してきました。平成27年1月の総務大臣通知により、すべての地方公共団体において発生主義・複式簿記会計の考え方を取り入れた新たな地方公会計を導入することになりました。

平成12年・13年

総務省方式による財務書類作成手法の提示。決算統計データを活用したバランスシート、行政コスト計算書等のモデルが示される。

平成18年

「基準モデル」と「総務省方式改訂モデル」が示される。複式簿記の導入と固定資産台帳の整備を前提とした本格的な取組が開始。

平成26年

「今後の新地方公会計の推進に関する研究会」報告書により、統一的な基準が示される。

平成27年

総務大臣通知により、平成29年度末までに統一的な基準による財務書類等の整備を全地方公共団体に要請。

平成29年度末

ほぼ全ての地方公共団体において統一的な基準による財務書類及び固定資産台帳の整備が完了。

統一的な基準導入による効果

財務4表の構成と役割

統一的な基準による地方公会計では、以下の4つの財務書類(財務4表)を作成します。これらは相互に連動し、地方自治体の財政状況を多角的に明らかにします。

BS

貸借対照表 (Balance Sheet)

会計年度末時点で、地方公共団体がどのような資産を保有し、その資産がどのような財源でまかなわれているかを対照表で示したもの。

  • 固定資産(事業用資産、インフラ資産)
  • 流動資産(現金預金、基金等)
  • 負債(地方債、引当金等)
  • 純資産(固定資産等形成分、余剰分)
PL

行政コスト計算書 (Profit and Loss)

一会計期間において、資産形成に結びつかない経常的な行政活動に係る費用と、その行政活動と直接の対価性のある使用料・手数料などの収益を対比させたもの。

  • 業務費用(人件費、物件費、減価償却費等)
  • 移転費用(補助金、社会保障給付等)
  • 経常収益(使用料及び手数料等)
  • 純行政コスト
NW

純資産変動計算書 (Net Worth)

貸借対照表の純資産の部に計上されている各項目が、1年間でどのように変動したかを表したもの。

  • 純行政コスト(△)
  • 財源(税収等、国県等補助金)
  • 固定資産等の変動
  • 本年度差額
CF

資金収支計算書 (Cash Flow)

一会計期間における、地方公共団体の行政活動に伴う現金等の資金の流れを性質の異なる三つの活動に分けて表示したもの。

  • 業務活動収支
  • 投資活動収支
  • 財務活動収支
  • 本年度資金収支額

財務4表の相互関係

固定資産台帳の整備

固定資産台帳は、地方公共団体が保有する財産を管理する台帳です。統一的な基準による地方公会計では、固定資産台帳の整備が前提となっており、公共施設マネジメント等への活用も期待されています。

固定資産台帳整備の目的

資産の網羅的把握

現行の官庁会計では把握できないストック情報を明確にし、地方自治体が保有する全ての資産を一元管理します。

正確なコスト算定

減価償却費等の算定により、真のコストを把握し、より精密な財政分析を可能にします。

公共施設マネジメント

施設の老朽化状況や更新時期を把握し、計画的な維持管理・更新を支援します。

固定資産台帳整備の実務手順

1
庁内体制の整備

委員会やワーキンググループを設置し、全庁的な推進体制を構築します。

2
資産の洗い出し

既存の財産台帳や決算資料等から、対象となる固定資産を特定・整理します。

3
資産の評価

取得原価が判明するものは取得原価で、不明なものは統一的な基準に従って評価します。

4
台帳の作成・更新

評価した資産情報を台帳に登録し、継続的な更新体制を確立します。

固定資産台帳整備の留意点

  • 昭和59年度以前に取得された資産や取得価額が不明な資産は備忘価額1円で計上
  • 定期的な資産の棚卸しによる台帳の精度維持が必要
  • 資本的支出と修繕費の区分を適切に行う
  • 除却・売却時の台帳からの除外処理を確実に実施

公会計制度導入のメリット

統一的な基準による地方公会計の導入により、様々なメリットが期待されます。

財政の見える化

隠れたコスト(減価償却費、退職手当引当金等)が明確になり、真のコストが把握できます。

比較可能性の確保

統一的な基準により、他の自治体との比較分析が可能になります。

財政分析の高度化

資産形成度、世代間公平性等の指標による多面的な分析が可能です。

住民への説明責任

分かりやすい財務情報の開示により、住民や議会への説明責任が向上します。

公共施設マネジメント

固定資産台帳を活用した計画的な公共施設の維持管理・更新が可能です。

予算編成への活用

コスト情報を活用した効率的・効果的な予算編成が実現できます。

公会計制度の課題と対応策

公会計制度の導入・運用には、いくつかの課題も存在します。これらの課題を認識し、適切に対応することが制度の成功には不可欠です。

主な課題

専門知識・スキルの不足

  • 財務書類作成には高度な専門知識が必要
  • 職員の研修やスキルアップが課題
  • 複式簿記の理解と実務への適用

事務負担の増加

  • 固定資産台帳の継続的な更新作業
  • 財務書類作成のための追加業務
  • システム導入・維持管理コスト

活用の定着化

  • 財務書類を分析・活用する能力の不足
  • 予算編成や政策形成への具体的な活用方法
  • 議会や住民への分かりやすい説明

課題への対応策

効果的な対応アプローチ

  1. 段階的な導入と習熟
    一度に全てを完璧にしようとせず、段階的に制度を導入し、職員のスキル向上を図る
  2. 外部専門家の活用
    公認会計士や税理士等の専門家による指導・支援を受ける
  3. システム化の推進
    会計システムの導入により、事務の効率化と正確性を向上させる
  4. 職員研修の充実
    継続的な研修により、職員の理解と実務能力を向上させる
  5. 他自治体との情報共有
    先進事例の学習や課題の共有により、効率的な制度運用を目指す

実務運用のポイント

公会計制度を効果的に運用するためには、以下のポイントを押さえることが重要です。

財務書類作成時の留意事項

1
開始貸借対照表の作成

制度導入初年度は、過去の資産・負債情報を整理し、開始時点の貸借対照表を作成します。

2
日々仕訳の実施

発生主義に基づく複式簿記により、取引の発生時点で適切な仕訳を行います。

3
期末整理仕訳

減価償却費の計上、引当金の設定など、期末に必要な調整仕訳を実施します。

4
財務書類の作成・検証

作成した財務書類の内容を検証し、必要に応じて修正・調整を行います。

効果的な活用方法

活用場面 活用内容 期待される効果
予算編成 コスト分析による事業評価 効率的・効果的な予算配分
公共施設管理 固定資産台帳による施設状況把握 計画的な維持管理・更新
政策評価 事業別・施設別コスト分析 政策効果の定量的評価
住民説明 分かりやすい財政状況の開示 透明性の向上、信頼関係構築

経費精算システムとの関連性

公会計制度の導入は、経費精算システムの検討にも重要な示唆を与えます。発生主義・複式簿記の考え方は、経費処理の効率化と正確性向上に直結します。

公会計制度と経費精算システムの相互作用

  • リアルタイムでの仕訳処理:経費発生時点での即座な会計処理により、発生主義の徹底が可能
  • コスト配分の精緻化:部門別、事業別のコスト管理により、より正確な行政コスト計算書の作成
  • 監査証跡の充実:電子データによる証跡管理で、会計処理の透明性・検証可能性を向上
  • 業務効率化:手作業削減により、財務書類作成業務の効率化と品質向上を実現

経費精算システム検討時のポイント

1
公会計基準への対応

統一的な基準による財務書類作成に対応できるシステムを選択

2
固定資産管理機能

固定資産台帳との連携機能を重視

3
セグメント分析対応

部門別、事業別のコスト分析機能を確保

4
他システム連携

既存の財務会計システムとの連携を考慮

まとめ

公会計制度は、地方自治体の財政運営をより透明で効率的なものにするための重要な制度です。統一的な基準による財務書類の作成を通じて、従来見えなかったコストや資産の状況が明確になり、住民への説明責任の向上と効果的な行政運営が期待されます。

成功のための要点

  1. 継続的な取り組み:制度導入は一時的な作業ではなく、継続的な改善が必要
  2. 職員の能力向上:専門知識の習得と実務経験の蓄積が不可欠
  3. システム活用:ICTの活用により効率性と正確性を両立
  4. 情報の活用:作成した財務書類を予算編成や政策形成に積極的に活用
  5. 住民との対話:分かりやすい形での情報開示と住民との双方向コミュニケーション

公会計制度の理解を深め、経費精算システムの導入検討にも活用していただければ幸いです。制度の適切な運用により、より良い行政サービスの提供と持続可能な財政運営を実現しましょう。

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