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【自治体向け】仕訳とは

目次 

仕訳とは何か?基本概念を理解しよう

仕訳の基本的な定義

仕訳とは、複式簿記において取引を記録するための基本的な手法です。一つの取引を「原因」と「結果」の二つの側面から捉え、左側(借方)と右側(貸方)に分けて記録します。

基本的な仕訳の形

借方(左側) 貸方(右側)
勘定科目 金額 / 勘定科目 金額

なぜ仕訳が重要なのか?

従来の自治体会計は現金の出入りのみを記録する「単式簿記・現金主義会計」でしたが、統一的な基準による地方公会計制度では「複式簿記・発生主義会計」が導入されました。これにより、資産や負債の状況を正確に把握し、行政サービスの真のコストを明らかにできるようになりました。

ポイント

複式簿記による仕訳は、「何が増減したか」と「その原因は何か」を同時に記録します。これにより、財政状況の正確な把握と透明性の向上が実現できます。

複式簿記の基本ルール

借方・貸方の定位置

複式簿記では、勘定科目の性質によって借方(左側)と貸方(右側)への記入位置が決まっています。以下の表で基本的なルールを確認しましょう。

要素 借方(左側)に記入 貸方(右側)に記入
資産 増加 減少
負債 減少 増加
純資産 減少 増加
費用 発生 -
収益 - 発生

仕訳作成の流れ

具体的な仕訳を作成する際は、以下の手順で進めます。

1
取引内容の分析
何が起こったかを把握し、どの勘定科目が影響を受けるかを判断する
2
金額の特定
取引金額を正確に把握し、消費税の扱いも確認する
3
借方・貸方の決定
定位置のルールに従って、左側と右側に記入する科目を決める
4
仕訳の記帳
借方と貸方の金額が一致していることを確認して記帳する

地方公会計における仕訳の特徴

民間企業との主な違い

地方公会計では、民間企業の会計処理と比べていくつかの特徴があります。総務省の「統一的な基準による地方公会計マニュアル」に基づく主な違いを整理しましょう。

注意点

地方公会計では、資産の一つである「現金預金」を別分類とし、「○○収入」「○○支出」という勘定科目を多数設けています。これらは「資金収支計算書」に計上されます。

地方公会計の5つの要素

統一的な基準では、すべての取引を以下の5つの要素に分類して処理します。

  • 資産:土地、建物、現金預金、有価証券、出資金、棚卸資産など
  • 負債:地方債、退職手当引当金、未払金、未払費用、賞与等引当金など
  • 純資産:固定資産等形成分、余剰分(不足分)
  • 費用等:職員給与費、物件費、維持補修費、減価償却費、補助金等
  • 収益等:使用料及び手数料、税収等、国県等補助金など

発生主義会計特有の勘定科目

地方公会計では、現金の動きがなくても経済事象を記録する発生主義会計を採用しています。以下が主な特有科目です。

科目分類 主な勘定科目 使用場面
引当金 退職手当引当金
賞与等引当金
徴収不能引当金
将来の支出に備えて計上
未収・未払 未収金・未払金
未収収益・未払費用
収支の時期と発生時期のズレを調整
減価償却 減価償却費
減価償却累計額
固定資産の価値減少を計上

実務でよく使う仕訳例

1. 旅費の仕訳

職員の出張に関わる旅費は、自治体において頻繁に発生する取引の一つです。

例:職員が現金で立替えた出張費用50,000円を後日支払う場合

借方 貸方
旅費 50,000 / 未払金 50,000

解説:費用である「旅費」が発生したため借方に記入し、まだ支払っていないため「未払金」を貸方に計上します。

2. 物件費の仕訳

消耗品や委託料など、物件費は自治体の日常業務で最も多い支出の一つです。

例:事務用消耗品30,000円を現金で購入した場合

借方 貸方
物件費 30,000 / 物件費等支出 30,000

解説:地方公会計では現金預金の代わりに「○○支出」という科目を使用します。これが資金収支計算書に反映されます。

3. 減価償却の仕訳

建物や備品などの固定資産は、耐用年数に応じて価値を減少させる減価償却処理が必要です。

例:庁舎建物の年間減価償却額5,000,000円を計上する場合

借方 貸方
減価償却費 5,000,000 / 減価償却累計額 5,000,000

解説:現金の動きはありませんが、資産価値の減少を適切に記録します。これが発生主義会計の特徴です。

4. 税収の仕訳

自治体の主要な収入源である税収の処理は、地方公会計特有の扱いがあります。

例:市民税10,000,000円の調定を行った場合

借方 貸方
未収金 10,000,000 / 税収等 10,000,000

解説:税収等は収益ではなく純資産の直接的な増加要因として「純資産変動計算書」に計上されます。

経費精算システムとの関連

仕訳知識が経費精算システム導入に役立つ理由

近年、自治体においてもデジタル化の一環として経費精算システムの導入が進んでいます。仕訳の知識があることで、システム導入時により効果的な運用が可能になります。

システム導入のメリット

  • 手作業による仕訳入力の自動化
  • 勘定科目の自動判定による入力ミス削減
  • 承認フローのデジタル化による処理時間短縮
  • 財務4表への自動反映による決算作業効率化

システム運用時の注意点

経費精算システムを効果的に運用するためには、以下の点に注意が必要です。

  1. 勘定科目の統一:システム導入前に勘定科目体系を整理し、職員間での認識を統一する
  2. 承認ルールの明確化:金額や費目に応じた承認フローを事前に設定する
  3. 職員研修の実施:システム操作方法だけでなく、会計処理の基本も含めた研修を行う
  4. 内部統制の強化:システム化により処理が見えにくくなる部分のチェック体制を構築する

実務で気をつけるべきポイント

仕訳処理時の重要チェックポイント

実務で仕訳を作成・確認する際は、以下の点を必ずチェックしましょう。

チェック項目 確認内容 注意点
借貸バランス 借方と貸方の金額が一致 金額不一致は財務書類の作成エラーの原因
勘定科目 適切な科目の選択 統一的な基準に準拠した科目体系の使用
消費税 課税・非課税の区分 自治体特有の非課税取引に注意
証憑書類 適切な証拠資料の保管 監査対応や検証に必要

よくある間違い

  • 現金預金の代わりに「○○支出」「○○収入」を使い忘れる
  • 引当金の計上を忘れる
  • 減価償却費の計算ミス
  • 未収金・未払金の計上タイミングの誤り

継続的な学習の重要性

地方公会計制度は継続的に改善・更新されており、最新の動向を把握し続けることが重要です。総務省から発表されるマニュアルの改訂情報や、他自治体の先進事例を参考に、常にスキルアップを図りましょう。

まとめ

仕訳は、自治体における会計処理の基本中の基本です。統一的な基準による地方公会計制度の導入により、従来の現金主義から発生主義への転換が進む中、正確な仕訳処理能力は自治体職員にとって必須のスキルとなっています。

本記事の重要ポイント

  • 仕訳は取引を借方・貸方に分けて記録する複式簿記の基本技法
  • 地方公会計では5つの要素(資産・負債・純資産・費用等・収益等)で分類
  • 発生主義特有の引当金や減価償却などの処理が重要
  • 経費精算システム導入時にも仕訳知識が活用できる
  • 継続的な学習と最新動向の把握が必要

今後、自治体のデジタル化がさらに進展する中で、仕訳の基本を理解し、システムを効果的に活用できる職員が求められています。本記事で学んだ知識を実務で活かし、より効率的で透明性の高い行政運営に貢献していただければ幸いです。

参考資料:
• 総務省「統一的な基準による地方公会計マニュアル」
• 総務省「地方公会計の整備について」
• 各自治体の公会計導入事例および実務事例

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